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TAAAの活動日誌 2002-2009年

2003年8月10日

南アフリカ帰国報告


2003年8月3日 埼玉県労働会館にて 平林 薫


新政9年目の南ア

アパルトヘイト終了から9年、南アフリカは着実に変化を遂げ、黒人層からも政界やビジネス界で活躍する人々が出てきている。電気、水道や年金制度なども改善されつつある。世界一危険な町と言われたジョハネスバーグは監視カメラの設置や警官の増員、再開発などによって生まれ変わろうとしている。その一方で、変化に取り残され、貧困の中で生きる人々が圧倒的に多いことも事実。黒人層の失業率は相変わらず40%以上。都市部への人口の流入も問題になっているが、都市部で定職を見つけるのは難しい。現在働き盛りの年齢層はアパルトヘイトの影響から基本的な教育を受けていない人が多いからである。


古い校舎と不法居住地域の学校

新政府は教育に力を入れているが、どこから手をつけていいのかわからないといった印象を受ける。アパルトヘイト当時に黒人のホームランドと呼ばれていた地方の学校は、校舎があるだけで、白人の学校には当たり前にある図書室や音楽室、体育館やプール、実習室などはない。その校舎がぼろぼろになって状況は悪化している。都市部に流入してきた人々が生活するのは不法居住地域で、公共の土地に掘っ立て小屋を建てて住む。水道や電気はなく衛生状態も悪い。その地域が大きくなると学校が必要になってくる。校舎としてコンテナを使い、簡易トイレ、水道は外に蛇口がぽつんとあるだけ。このような学校に生徒が2000人もいたりするのである。 TAAAの寄贈する本は、NGOや州教育省担当者を通して、そういった学校に配布され、教室の一つを図書室に改造したり、教室の片隅に"コーナー図書室"を設けたりしている。同じくTAAAが寄贈した移動図書館車に載せられて貸し出しが行なわれている。(写真:「図書館車に入る時は、しっ、静かに」)


MEIの図書館車33校を回る

TAAAは現在、南アの3つの州(ジョハネスバーグと首都プレトリアのあるハウテン州、ケープタウンのある西ケープ州、港町ダーバンのあるクワズールーナタール州)で行なわれている教育プロジェクトを支援している。MEIはジョハネスバーグから東へ25キロの金鉱の町ベノニにあるメソジスト教会ベースのNGOで、黒人居住区デベトンを中心に教育プロジェクトを行なっている。TAAAは移動図書館車1台と、本を寄贈している。白人女性アリソンと元教員のジョージ、運転手のアブソレムの3人を中心に活動し、図書館車は33校を訪問している。昨年受け取った本の中に絵本や易しいストーリブックが多く入っていたことを大変喜んでいた。


MEIを支援する私立高校

MEIは私立女子校のセント・アンドリュースと交流があり、5月末、6月末の合同ミーティングに参加した。同校では"ウバンビスワノ"というプロジェクトを設立し、土曜日にボランティアの先生がデベトンを訪問して子供たちにスポーツや音楽を教えている。トレーシー先生は一般企業へも寄付を呼びかけ、 プロジェクトは着実に大きくなっている。これでTAAA,MEI,ウバンビスワノと3団体ががっちりとスクラムを組んで、デベトンを中心に周辺の黒人居住区や不法居住地域への教育支援をする体制が整った。


さらにMEIへ1台とストリートチルドレンへ1台

MEIはもう1台図書館車を巡回させたいと考えている。その際にはセント・アンドリュース校からも資金、物資両面の支援が期待できる。将来プロジェクトを行なう予定にしている地域の一つはハウテン州とプマランガ州の州境にある金鉱山周辺の不法居住区で、農家の跡地に建てられた学校を訪問した。この日、好天で風が強く、刺すような寒さの中、何人かの子供たちは裸足で学校に来ていた。農場主から借り受けた納屋などを改装したもので学校と呼べる設備ではない。これまで学校に行けなかったり、何十キロも歩いて通っていた子供たちにとって、近くの学校で勉強できるということだけでも喜ばしいことなのだ。ジョハネスバーグにある路上生活の子供たちの世話をするNGOにも図書館車の寄贈を考えている。ここをベースにNGOや地域のセンターへの貸し出しや寄贈を行なう予定。


クワズールーナタール州(KZN州)教育省、教育図書情報技術サービス(ELITS)

6月中旬、クワズールーナタール州の移動図書館車プロジェクトを訪問した。 同州にはTAAAより3台の移動図書館車が寄贈された。州の西部はドラケンス山脈が連なり、高いところでは2000メートル以上。中央部、東部には小高い丘が延々と続き、"千の丘の谷"という地名もある。(写真:丘陵地域を走る図書館車)


クワズールーナタール州3台のうち1台

商業都市ダーバンをベースに黒人居住区イナンダ周辺の17校を9月頃より巡回予定。この地域はダーバンからさほど離れてはいないが、学校の設備や交通の便が悪く、また少し奥に入ると図書館もない。巡回予定の5校を訪問したが、 新設の1校を除き本がほとんどない状況。本の寄付の依頼と共に、教育用のおもちゃ、例えば数や時間を習うような教材や粘土などの古いものがあったらぜひ送って欲しいとの要請があった。


KZN州の2台目の車

州北部、バズワナの教育センターをベースに40校を9月頃より巡回予定。この教育センターは民間企業と州教育省が出資して建設された。モザンビーク国境に近く、情報、設備に乏しい地域といえる。センターには図書室、コンピューター室、実験室、会議室などがあり、クラス単位で設備を利用できる。訪問当日も、会議や、教材を取りに来た先生方でにぎわっていた。


KZN州の3台目の車

州都ウルンディをベースに15校を回っている。昨年11月の訪問時には故障していたが、現在は順調に走っていた。ウルンディは州都といっても行政府があるのみで、貧しい地域である。山岳地帯で道路も悪いため、移動は大変。図書館車も1日1校のみの訪問で、週に5校、3週間を1サイクルとしている。周辺の学校では図書館車プロジェクトの話を聞きつけ、自分達の学校にも巡回して欲しいと要望してきている。教育省から学校へのお知らせや教材なども車に載せられ届けられる。ウルンディの図書館車は州の各省庁の建物内に保管され、近くのELITSの事務所に配車される。現在プロジェクトは、内勤が2名、図書の先生が2名、ドライバーとボランティアの若い女性各1名の計6名で行なわれている。バスを掃除し、教材などを積み込んで出発。砂埃の立つでこぼこ道に入り、小山を上がったり下がったり。牛の群れと牛飼いに出会うくらいで、あたりは静まり返っている。図書館車は歓声を上げる子供たちに迎えられた。今回訪問したンシカィエムピロ小学校はグレード1-7までの生徒218人。校舎があるというだけ典型的な田舎の黒人居住地域の学校である。細々と放牧をするか、出稼ぎで家計を支えている。子供たちは素直で子供らしく、グメダ校長先生も、"ここは何もなくて貧しいけれど、都会のような犯罪はないし、子供たちも素直で教育しやすい"と話していた。


本に目を輝かす子供たち

この地域で自分の本を所有できる子供たちはほとんどいない。子供たちは図書館車の訪問を待ちわび、目を輝かせて図書の先生の話を聞く。バスが到着すると高学年の子供たちが教材などを運び出し準備をはじめる。サイドを開けて本をきれいに並べる。ここでも貸し出しは先生方によって行なわれる。子供たちは低学年から順に車の前に集まり、図書館や本の扱い方についてお話を聞く。その後、先生がそれぞれの学年にあった本を一冊選んで朗読をする。最後に子供たちはバスの中を見学し、実際に自分で本を手にとってみる。低学年の子供たちが、初めて見るカラーの写真や絵が入った本を開くとき、なんともいえない表情をする。本の魅力を、驚きと感動をもって一瞬のうちに理解したような目。その輝いた目を見るたび、改めてTAAAの活動に自信と誇りを持ち、もっともっとそんな目を見たいと思うのである。この日は男の子達が踊りを披露してくれた。足を高く上げ、地面を踏み鳴らすスタンピングは、もともと戦闘に出て行く男達が敵を威嚇し、士気を高めるもの。頭の上にまで足が上がる身体の柔軟さとリズム感は驚くほどだ。クワズールーナタール州教育省は、新しい国が変わっていく上で教育が最も重要であるという強い認識をもって仕事をしている。次回の本の寄付はELITSあてに送られることになり、TAAAの本は移動図書館車に載せられたり、学校に寄贈されたりと、有効に利用されることだろう。(写真:車内で本を見るKZN州の小学生)

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