IZINDABA 第1号 2003年5月6日発
1.反アパルトヘイトの闘士、ウォルター・シスル氏死去
5月5日午後9時、南アフリカ国民の父であり、マンデラ氏の師でもあるウォルター・シスル氏が自宅で亡くなりました。5月18日には91歳のお誕生日を迎えるはずでした。
彼こそがまさにマンデラ氏をANCに引き入れた人物で、共に数々の抵抗運動を展開し、ロベン島に25年間幽閉されました。彼の”奥さんであり、同志であり、親友である”アルバティーナの腕の中で永眠したそうです。彼のお母さんはコサ人で、家政婦をしていたときに白人の男性との間に子供ができてしまい、故郷のトランスカイに帰って彼を産みました。彼は14歳のときに金鉱労働者としてジョハネスバーグに出てきます。その後労働組合運動に加わり、ANCのメンバーとなり、リーダーシップを取り始めます。彼がロベン島に幽閉されている間、彼女と子供たちが反アパルトヘイト闘争を引き継ぎました。マンデラは、”私は大統領になったり、ノーベル平和賞をもらったりと華やかな舞台を踏んだけれども、彼はいつも私たちの誰よりもずっとずっと高いポジションにいる”と賞賛しています。性格は温和で、どんな困難に直面しても落ち着いて対処し、意見の違う人々や反対者たちでさえも、彼の言葉には耳を傾けたと言います。マンデラがいなければ今の南アフリカはなかった、というなら、 シスルこそがこの国を救ったといえるでしょう。あのリボニア裁判の時も、彼がいなければトップのメンバー達は死刑を宣告されていただろうと言われています。新しい国になってからは、皆彼を引っ張り出そうとするのですが、頑固に裏方に徹していました。子供たちは皆、新政府に入ったり、企業のトップになったりしているので、彼にもっと大きな家に住んで贅沢をすればいいのに、と言っても”衣食住足りているのだから、このままでいい”と、ひっそりと地味な暮らしを続けていました。政府内の汚職や企業の犯罪が目立つこの頃、彼のような清廉な人物のことを決して忘れてはいけないと思います。これからだんだんと、”アパルトヘイトを知らない世代”が増えてきます。それは幸せなことですが、アパルトヘイト時代にどのようなことが起こり、 どれだけ多くの人々が闘い、犠牲になったのか、ということを伝えつづけていかなければ、と、シスル氏の死にあたり改めて感じました。PAC(パンアフリカニスト会議)の議長が弔辞の中で、”私は彼の死を悲しみ嘆くのではなく、彼をこの国に遣わしてくださった神様に感謝をしたい”と言っていました。彼のお誕生日に葬儀が行われる予定です。
2.ウィニー・マディキゼラ・マンデラ有罪判決
4月25日、ANC女性同盟議長であり、元マンデラ夫人のウィニー・マディキゼラ・マンデラ が、詐欺、窃盗罪で懲役5年の有罪になりました。判決後、彼女はすべての公職から退くと発表し、現在は保釈中です。犯罪は、ANC女性同盟議長としての権限を使い、日本円にして約一千万円の公金を横領したものです。これまでにも、アパルトヘイト時代に”マンデラフットボールクラブ”のメンバーの殺人に関わったのではないかとか、議員として給料を受けていながら議会に出席しないとか、個人的に受けた献金を公表しなかったとか、あらゆる方面から疑惑、非難を浴びていました。ただ、相変わらず彼女の人気は相当なもので、判決の日もプレトリア最高裁には支持者が大勢駆けつけました。もう7年位前になりますが、私はANC女性同盟の集会が、とにかくきれいで華やかで、オーラが漂っていました。でもその時も彼女は大変な遅刻をして(わざと遅れて目立とうとするとも言われています)、当時副大統領だったターボ・ンベキがあからさまに不機嫌な顔をして迎えたのが印象的です。前夫のマンデラ氏とも今では一切連絡をとっていないようです。確かにアパルトヘイト当時、夫は投獄され、 小さな子供を抱えながら、闘争のリーダーとして活躍した彼女が果たした役割は大きなものだと思います。けれども前出のシスル夫人アルバティーナと違うところは、常に彼女自身の野心を持ち、その存在をアピールし続けたことです。マンデラが釈放されてからも、夫と同じくらい”重要な地位”につくことばかりを望んだようで、結局はマンデラにも愛想をつかされてしまったわけです。彼女に関しては好き嫌いもあるとは思いますが、やはり公人としては失格だったのではないでしょうか。判決後、”ANCは自分を利用しただけ。一生をかけて闘ってきた結果がよく見えた。多くの自分を支持する人々の存在に感謝し、その存在によって自分の闘いは無駄ではなかったと感じている。時間をかけて自分の無実を証明したい。この裁判によって自分のエネルギーにREFOCUS(改めて焦点を向ける)ことができた。”と相変わらず強気の発言をしています。もちろん彼女の言葉にも一理あると思います。今後は、一般人として、 そして元のソーシャルワーカーとして、彼女を支持する人たちのために力を尽くしていくのがよいのではないでしょうか